方のなかったことを、白木に訊《たず》ねたのであった。
「メントール侯と音叉《おんさ》の話は、出鱈目《でたらめ》なんだろうね」
「出鱈目などとは、とんでもない。それに、あの金髪娘たちが、その本当なることを、あのとおり証明してくれたんじゃないか」
「すると、メントール侯の音の研究は、本格的なんだね。ふしぎな城主さまだ」
「おいおい、感心してばかりいたのでは駄目だよ、あれは君に聴かせるために、おれが話を切り出したことなんだ」
「私に聴かせるためというと……」
「音楽の学問なんか、おれには分らないのさ。ぜひとも君に聴いておいて貰《もら》って、これからわれわれの取り懸ろうという仕事の手がかりにして貰いたかったわけだよ」
「これから取り懸るという仕事とは、ゼルシーの廃墟《はいきょ》をたずねて、何か宝物でも掘りだすのかね」
「うん、宝探しにはちがいないが、困ったことに、その宝の形が一向はっきりしないのさ。とにかくそれは、イギリス政府が英本土を捨てて都落ちをする際、使用することになっている暗号の鍵なんだ。それが、あのゼルシー城塞のどこかに隠されているのだ。われわれは、それを探し出すために、この島までや
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