、酒とそして……いや、よしましょう、そんな話は。で、音叉を鳴らすと、なぜ声のいい人だということが分るのですか」
「さあ、それは、その人の声と音叉の音とがからみあって第三の声が聞えるんだそうですわ。それはその第三の声は侯爵さまだけに聞える音で、他の平民どもには聞えない音なんですって。だから侯爵さまは、誰も持っていない神の力でもって、いい声の人をお探しになれるのですってよ」
「やれやれ、今のメントール侯も、中世紀ごろと同じに、半分は人間で、半分は神さまなんですね。さあさあ、話はそれくらいにして、今夜は皆さんに集っていただいて、ダンスの会を開きましょう。リスボンから仕入れて来た御馳走も開きますよ。ぜひ皆さん来てくださいね」
「あーら本当ですの。本当なら、素敵《すてき》だわ」
「あたし、そう来るだろうと思って、待ってたのよ」
「まあ、あんなことを……」
 とにかくに、白木は、まんまと島の白人の娘さんたちの人気を攫《さら》ってしまった。まるでメントール侯の再来でもあるかのように。


   本土《ほんど》の外《そと》の秘庫《ひこ》


 山麓《さんろく》の宿舎に入って、私はさっきから気になって仕
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