しゃべ》っているメントール侯の消息については、どこまで本当なのか、私には解りかねた。
「あのう、侯爵さまは、その夜、音楽の話をなさったり、それから御愛用の音叉《おんさ》を、ぴーんと鳴らしてみたりなさらなかったでしょうかしら」
「ああ、あの有名なる音叉ですか。非常に高い音の出るあの音叉は、侯が私たちと話をなさるときには、いつも手にして玩具《おもちゃ》のように弄《もてあそ》びながら、ぴーんと高い音をたてられるのが例だった。しかし、あの最後の夜には、それもなかったのですよ。――侯があの音叉をお鳴らしになるのはどういうわけですかな、お嬢さんたちはそれを御存知?」
話が妙な方向にそれた。私は音叉の話など初耳だ。白木先生の意図《いと》をはかりかねながら、私は黙ってこの対話に耳を傾けていた。
「侯爵さまは、いい声の人を探し出すために、ああしてたえず音叉を鳴らして、話し相手の声をおしらべになっていたんですって、そんな話を、お聞きになりません?」
「私たちは、お嬢さんがたほど信用がなかったのか、それとも私に音楽の素養《そよう》がないと思ってか、侯は私たちには、そんな話をしませんでしたね。いつもする話は
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