。メントール侯ですぞ。わかりますか、そこに聳《そび》えているゼルシー城の持主であられたメントール侯にね」
白木は、ステッキの先をあげ、はるかの山顛《さんてん》にどっしりと腰をおちつけているゼルシー城塞《じょうさい》を指《ゆびさ》した。
「まあ、あの侯爵さまと、そんなにお親しい御間柄《おあいだがら》ですの。そう伺《うかが》えばなつかしいわ。で、侯爵さまは、このごろちっともわたしたちに顔をお見せになりませんのですけれど、一体どこにいらっしゃるのでしょうかしら」
娘たちの間には、かのメントール侯こそ憧憬《あこがれ》の星であるらしく思われた。
「さあ、そのメントール侯だが、実は私もその行方《ゆくえ》をお探し申上げているのですがね。侯には今から半年ほど前の或る夜更《よふ》けにリスボンの或る場所でお目に懸《かか》ったが、それが最後の会見だったのです。侯の消息《しょうそく》は依然として不明ですわい。その夜、侯がいつになく酒もたしなまれず、蒼《あお》い顔をして溜息《ためいき》ばかりをついていられたのを思い出します」
白木は、娘さんたちに気に入るようにと、たくみに話をはこんでいる。しかし、その喋《
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