ってきたのだ」
白木は、このときようやく、この島にやってきた事情を、はっきり物語った。
暗号の鍵を探しあてるためだという。その暗号の鍵とはどんな形のものであるか。暗号帖《あんごうちょう》のようなものか、それともタイプライターのように器械になったものか、或いは又別な形式のものであろうか。
このいずれであるかについて、白木自身は、全く何にも分っていないらしい。島の娘をつかまえて、メントール候の話に花を咲かせたのも、実は私に、探査《たんさ》の手懸りを掴《つか》ませるためだったというのだ。
では、私は何を掴み得《え》たであろうか。音楽マニアにも似たメントール侯のこと、その侯が、音叉を持ちあるいて美声《びせい》の人を探し求めていること、侯が島の娘たちにたいへん人気があること。それから、侯は今から半歳ほど前から消息を断っていること――
たったこれだけのことではないか。しかも、これが暗号の鍵の正体をつきとめる材料らしいものは、一つも見当らない。私は、ひとりぎめにすぎる白木の暴挙《ぼうきょ》に対し、すくなからぬ不満を覚《おぼ》えたのであるが、事ここに至っては、そんなことを云っても何にもならな
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