軽機といっても大したことはないよ、相手が愕《おどろ》いてくれればいいだけのことだ」
「ふーん、そうかね」
 私は思わず呻《うな》ってしまった。白木は、私が怖じけないようにと、わざと物をかるくいっているように思われる。


   妙な伯爵と男爵


 私たちの乗った船は、ゼルシー島についた。
 実をいえば、私は鬼《おに》ヶ島《しま》へいくような気持をもって、ここまでやって来たのであるが、あの緑の樹で蔽《おお》われた突兀《とっこつ》と天を摩《ま》する恰好のいい島影を海上から望んだ刹那《せつな》、そういう不安な考えは一時に消えてしまった。そして非常に魅力のある極楽島《ごくらくとう》へ来たように感じたのであった。
 上陸第一歩、私は、もうすっかり気をよくしていた。それはこの島に住んでいる若い白人の娘たちが、果物の籠を抱《かか》えて、私たちの方へとびついて来たからであった。
「あのう、こちら、リスボンからいらした日本領事館の方でしょう。あたしたちお迎えにあがりましたのよ」
 娘たちは、私たちを囲んで、もうすっかりお友達のような気になって、はしゃぐのであった。白木も上機嫌《じょうきげん》だ。
「や
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