から南西へちょっと一千キロ、マデイラ群島中の小さな島だ。ゼルシー島だよ」
「ゼルシー島か。ゼルシー島といえば、メントール侯の城塞《じょうさい》のある島だ」
「そうだ、物覚《ものおぼ》えがいいね、君は。しかしその城塞が、ドイツ軍の爆撃に遭《あ》って、三分の二ぐらいは崩れてしまっていることを知っているかね」
「ほほう、そんなことがあったのか。僕は知らなかったね」
「勿論そうだろう。おれだって、昨晩《ゆうべ》それを聞いて始めて知ったばかりだ」
「白木、君は昨夜、どこに居たのかね」
「昨夜は、ドイツ軍人とその第五列との秘密集会の席にいたよ。――さあ、夕方まで、まだちょっと時間があるから、おれはエミリーの酒場に敬意を表してくる。そうだ、それからプリ銃砲店《じゅうほうてん》に寄って、倉庫探しの結果を聞いてくるからね」
「倉庫探しというのは、何のことかね」
「いや、今度ゼルシー島に持って行きたいものがあるので、それを探してくれるように頼んで置いたんだ。一種の軽機関銃《けいきかんじゅう》のことだがね」
「軽機《けいき》? そんなものを持っていく必要があるのかね」
「はははは、怖《お》じけづいたのかね。
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