うにして、室内の什器《じゅうき》を一つ一つ見ていった。その間に、白木の撃ちだす銃声が、しきりに私の心臓に響いた。
「あっ、これかな……」
 私は、思わずそう叫んだ。暖炉《だんろ》の上においてある音叉をとりあげた。それは非常に振動数の高いもので、ガーンと叩いても、殆んど振動音の聴えぬ程度のものだった。しかしその音叉にも別に異状はなかった。
「これも駄目か。が――、待てよ」
 そのとき私は、メントール侯が、いつも音叉《おんさ》をもちあるいて、相手に歌をうたわせながら、音叉をぴーんと弾《ひ》いて耳を傾《かたむ》けていたことを思い出した。と同時に、私は一種の霊感《れいかん》ともいうべきものを感じて、再び蓄音機の傍によって音盤《レコード》をかけてみたのであった。
 蓄音機は再び美しいメロディーを奏《かな》ではじめた。――私は、その傍《そば》へ音叉を持っていって、ぴーんと弾いてみた。蓄音機から出てくる音楽と、音叉から出る正しい振動数の音とが互《たがい》に干渉《かんしょう》し合って、また別に第三の音――一|種《しゅ》異様《いよう》な唸《うな》る音が聴えはじめたのであった。が、それはまだ成功とはいえな
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