ちょうこう》は、一向発見されなかったのである。
「そんな筈はないんだが……もし、蓄音機が暗号に無関係だとすると、これはもう簡単に手懸《てがか》りを発見することは不可能だ」私は失望して、白木の方を見た。
白木は、はっと身をひいて、壁にぴたりと身体をつけた。又銃声と共に、彼の傍の窓硝子が水のように飛び散った。
と、こんどは白木がひらりと身を翻《ひるがえ》して床の上に腹匐《はらば》いになると、例の機銃を肩にあてて遂に銃声はげしく撃ちだした。私の身体は、びーんと硬直した。
「おい、まだかね、まだ発見できないか」
白木は叫ぶ。私は、はっと吾《わ》れに戻った。
「うん……もうすこしだ。頑張っていてくれ」
私は、心ならずも嘘をつかねばならなかった。私は全身に熱い汗をかいた。ここですべてを諦《あきら》めてしまえば、これまでここに入りこんだヘボ密偵と同じことになる。私の頭の中には、蓄音機や音盤《レコード》やモールス符号やメントール侯爵の顔や島の娘の顔が、走馬灯《そうまとう》のようにぐるぐると廻る。
「何かあるにちがいないのだが……」私は室内をぶらぶら歩きはじめた。それから心を落ちつけ、目を皿のよ
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