さんざん探した者があるんだな」
私はちょっと失望したが、しかしすぐ気をとりかえした。あわて者は、肝腎《かんじん》の宝物に手をふれても、それと気がつかないだろう。まだ脈《みゃく》があるにちがいないと、私は合点《がてん》のいくまで調べる決心をした。
私は、蓄音機をかけてみようと思った。廻転盤の上には、音盤《レコード》が載っていなかった。
「音盤はどこにあるのかしらん」
私はあたりを見廻した。あった。
音盤を入れる羊の皮で出来た鞄が、小|卓子《テーブル》の上にのっていた。その中を調べてみると、音盤が十枚ほど入っていた。私はその一枚一枚をとりあげてラベルを見た。
これはいずれも英国の有名な某会社製のものであって、曲目は「ホーム・スイートホーム」とか「英国々歌」とか「トロイメライ」とかいう通俗《つうぞく》なものばかりであった。
私はその一枚をとって、蓄音機にかけてみた。ヴィオロンセロを主とする四重奏《しじゅうそう》で、美しいメロディーがとび出して来た。聴いていると、何だか眠くなるようであった。
しかし別に期待した異状はなかった。
「駄目だなあ」私は、次の音盤をかけた。これも異状なし
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