すき》に、曲った大きな階段を音のしないように登っていったのであった。
 メントール侯の居間は、幸《さいわ》いにも破壊されずにあった。それは、聞きしにまさる豪華なものであって、中世紀この方の、武器や、酒のみ道具や、狩猟《しゅりょう》用具などが、いたるところの壁を占領していた。また大きな卓子の上には、古めかしい書籍が、堆高《うずたか》く積んであり、それと並んで皮でつくった太鼓のようなものが置いてあった。只一つ、新しいものがあるのが目についた。それは蓄音機《ちくおんき》であった。
「おい、早いところ宝さがしだ。君には、何か手懸りが見つかったかね」白木が、私にそういった。
「冗談じゃない。今部屋をぐるっと見廻したばかりだ」
「炯眼《けいがん》な探偵は、さっと見廻しただけで、宝でも何でも、欲しいものを探しあてるのだけれど……」
「じゃあ、君がそれをやればいい」
「いや、今度ばかりは、おれは駄目さ。始めからそう思っていたし、それにこの部屋を一目見て断念したよ。おれには科学は苦手さ。君に万事《ばんじ》を頼む」と、いつになく白木は、あっさり匙《さじ》をなげて、窓のところへいった。
「頼まれても困るが…
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