、メントール侯の居間の中にあると思うんだ。尤《もっと》も、これまでにメントール侯の居間は、幾度も秘密の闖入者《ちんにゅうしゃ》のために捜査されたらしいが、遂に一物も得なかったという。だから、宝物はまだ安全に、そこに隠されてあるのだと思う」
「ふーん、心細い話だ」私が、溜息《ためいき》と共にそういうと、白木は何を感じたか、私の傍《そば》へつと寄り、
「おい六升男爵。そうお前さんのように、何から何まで疑い深く、そして敗戦主義になっちゃ困るじゃないか。始めからそんな引込思案《ひっこみじあん》な考えでいっちゃ、取れるものも取れやしないよ」
「そうかしら」
「そうだとも。たしかにこの部屋にあるんだ。だから探し出さずには置かないぞ――とこういう風に突進していかなくちゃ、そこに顔を出している宝だって、見つかりはしないよ。引込思案はそもそも日本人の共通な損な性質だ」
白木は一発、痛いところをついた。そうかもしれない。私たちは、従来の教育でもって、どうもそういう性格がむきだしになっていけない。取れるものも取れないと、白木の警告した点は、さすがに身にしみる。
「おーい、待ってよう」
このときようやく、
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