唇まで持っていった盃を呑みもせずに下に置いて、大きく溜息《ためいき》をついて、
「明日だ。ひょっとしたら、遅すぎるかもしれないが、明日にしよう。今日いくのは危険だ」
といって、何をか考え込む様子だった。
城塞見物《じょうさいけんぶつ》
その夜は、娘さんたちに約束のとおり、白木はホテルの広間を借りきって、豪華なダンスの会を催《もよお》した。
その盛会だったことは、呆《あき》れるばかりで、白木は始終鼻をうごめかしながら、溌剌《はつらつ》たるお嬢さんや、小皺《こじわ》のある夫人たちに、あっちへ引張られ、こっちへ引張られして、もみくちゃにされていた。あとから白木の弁解するところによると、これも重要なる作戦の一つで、われらの旅行目的をカムフラージュし、且《か》つはメントール侯の日常を知っている娘さんたちを味方につけて、翌日以後大いに利用しようという魂胆《こんたん》だったということである。
さて、その翌朝《よくあさ》とはなった。
私たちは、軽装《けいそう》して、宿を出た。物好きに城塞見物《じょうさいけんぶつ》をやって楽しもうという腹に見せかけ、ホテルのボーイに充分の御馳走や
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