構えて猫背の肥満漢が茶色の大きな眼鏡をかけて、人をばかにしたような顔で、にこついていた。
「ちぇッ、きさまは猫々か、いっぱい喰わしたな」
 烏啼は無念のあまり舌打ちをした。
「折角《せっかく》御来邸の案内状を頂いたのに、留守をしていては申訳ないからね」
「途中から引返したのか」
「とんでもない。拙者は原の町行きの切符を買っただけのことでござる」
「でも、確かに袋探偵は玄関から旅行鞄と毛布を持って出かけていったが……」
 と碇が不審の思い入れだ。
「ははあ、あれは拙者のふきかえ紳士でな、日当千円のものいりじゃ。後で君の方へ請求書を廻すことにしよう」
「おい猫々先生。どうするつもりか。いつまでわれわれに手をあげさせて置くんだ」
「いや、もうすぐだ。警察隊がやがて来る。もう五六分すれば……」
「五六分すれば……」
 烏啼の目がぎらりと光って碇へ。
 と、高くさしあげた碇の手の中で、ぴしんと硝子のこわれる音がして、破片が床にこぼれ落ちた。
「何だ。何をした」
 と、袋探偵は銃口を碇の方へ向ける。そのとき碇が蒼白になって昏倒した。と、その隣にいた烏啼もばったり倒れた。
「どうした……」
 言葉半
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