青森行急行であります”
“只今午後九時十七分です。袋猫々は玄関前に現われ、旅行鞄と毛布とを自動車に積みこみ、助手席に少年を一人のせてばあやに見送られて、自動車を自ら運転して出かけました。方向は上野のようであります”
“中折帽に長い茶色のオーバー、猫背で、茶色の色眼鏡をかけた袋猫々は、黒い旅行鞄と灰色の毛布をもって四番線の九六列車に乗込みました。列車は午後十時一分発車しました。袋猫々はしきりに林檎《りんご》をかじりながら、本を読んでいます”
“只今午後十時十分、少年が、猫々の自動車を運転して袋邸に戻って来ました。ばあやが起きて来ました。自動車はガレージに入れて錠をかけました。少年は、ばあやからチョコレートの箱と林檎を三つもらって、喜んで帰って行きました”
“ばあやの部屋の電灯も消え、邸内の窓は全部まっくらになりました。街灯と門灯だけが光っています”
 報告は、櫛《くし》の歯をひくように、烏啼天駆のところへ集ってくる。
 しばらくして大宮駅から報告があって、袋探偵は座席で毛布にくるまって寝入っていると知らせて来た。
「よかろう。猫々め、暗号文に釣られて、とうとう福島県へ追払われやがった。さ
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