のは笹山鬼二郎のことだな」
 袋探偵は直感した。
 今日の掏摸《すり》が只の掏摸でなかったことは、彼奴の用いた念入りな手から察しがつく。烏啼の一味か、或いは笹山の一派かと考えたが、この暗号文から推測すると、どうしてもこれは烏啼の部下から本部又は碇健二へ送った情報に違いない。
「そうか。こういう暗号文を手に入れたからには、わしは原の町へ至急出張せんけりゃならん定石だ」
 彼は急遽《きゅうきょ》自動車を操縦して外出した。


   記録すべき応対


 表に張り込んでいた烏啼の部下は、その都度本部へ報告を送った。
“袋猫々が、周章《あわ》てて自動車で外出しました”
“上野広小路で買物をしました。旅行鞄を買い、食料品を買い、トランプを買いました”
“上野駅で、原の町行きの二等切符を買いました”
“駅前の本屋へ寄りました。サトウ・ハチローの詩集と旅行案内とを買いました”
“駅前の喫茶店で、紅茶一つ、アンミツ一つをたべました。十円チップを置きました”
“袋探偵は午後三時帰宅しました。窓から覗《のぞ》いてみると、彼は旅行の準備をしています”
“取調べたるところ、袋探偵の買った切符は午後十時上野発の
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