は黙りこくっていた。
「それで多田君」と警部は刑事の方を向いて言った。
「木村銀太という男の行方をしらべて貰いたい。彼奴はマダムのおみねと共謀して大将の寝首を掻いたらしいんだ。――さア、そこらで室調《へやしらべ》を、便利な階下へうつすことにしようじゃないか」
帆村荘六の面目玉は丸潰れだった。彼が犯人と指摘した人物は、皮肉にも、警察署の留置場に一と晩送って、この上ないアリバイを拵えていたのだった。帆村に、如何なる整然たる推理があっても、かのアリバイの事実はそれを木ッ葉微塵に吹きとばしてしまったといってよい。
(だが、もしや……)と帆村は螺旋階段を静かに下におりながら、なお諦めかねる思索にとりすがった。
(もしや、犯人が現場にいなくて、ピストルが射てるとしたら、どうだろう。それは果して絶対にあり得べからざることだろうか。一平みたいな人物には、一体どれ位までのことなら出来るのだろうか。あいつは、一個のネオン・サインの看板屋なんだが)
屋根裏のピストル。それに気になるのは、あの脅迫状の文句「寒い日にやっつける」ということ。
不図《ふと》気がつくと、階下で男女が声高に争っている様子だ。
「
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