あるです」
「ほほう、どうしたというんだ」
「あいつの家を叩きおこしてみましたが、昨夜は夕から出たっきり、朝方まで、とうとう帰って来なかったんです」
「それで……」
「それでこいつは怪しいと思って、帰りがけに淀橋署に、ちょっと寄って、偶然一平のことを聞いてみましたところ、意外にも一平は上野署に留置されていることが判ったんです」
「なんだ、一平は上野に抛りこまれているって?」課長は不審にたえぬという顔付をするのだった。
「実は一平さん、昨夜十二時ごろから、山下のおでん屋の屋台に噛《かじ》りついて、徳利を十何本とか倒して、くだをまいたんだそうです。揚句の果、午前二時近くになって、店をしまうから帰って来れと、屋台の親爺が言うと、なにを生意気な、というので、おでん屋の屋台をゆすぶって、到頭そいつを往来に、ぶっ倒しちまったんです。そこで上野署へ一晩留置ということになったんですが、身柄は今朝五時半釈放されました」
「そうか、こいつは又、素晴らしい現場不在証明《アリバイ》だ。ねえ帆村君、あのピストルが屋根裏でズドンと鳴った頃には、一平の奴上野署の豚箱のなかで、虱に噛まれていたらしいよ」
「……」帆村
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