になるから、おみねは銀太を逃がしたのです、銀太は裸の上に着物を着直して、いろんな持ちものを懐にねじこんで逃げるうちに、あのライターを落としたんです。銀太が相当の道程を逃げたころを見はからって、マダムのおみねが『人殺しッ』と怒鳴ったんです」
「すると、あのピストルは、誰が射ったことになるんだい」
「調べてみなければわかりませんが、多分ネオン屋の一平が射ったんでしょう。カフェ・オソメの女坂も怪しいですがね」
「そうかね。僕はさっき言ったように、情夫とおみねの実演だと思うよ。とにかく、他の連中の動静も多田刑事に調べにやったからもう直ぐ判るだろう」
 その話の半ばへ、噂の多田刑事が、ヒョくり顔を出した。
「課長、女坂染吉は家に居ましたよ。昨夜十二時から一歩も外へ出なかったそうです。腹が下ったとかで、夜っぴて女房に、腹をさすらせたり、足をもませたりしていたそうです」
「重宝な現場不在証明《アリバイ》ができたものだな」と課長は、薄笑いをした。
「ゆかりのことはH風呂にきいて午前四時半まで、Nという男と滞在していたことが判りました。それから大久保一平、あのネオン屋ですね、あいつについちゃ意外なことが
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