かり」に傍点]の寝床なんです」
「ウンそうか。で、そのゆかり[#「ゆかり」に傍点]さんは見えないようだが、どうしたんだい」
「それがちょっと、アノ、昨夜出たっきり帰ってまいりませんので……」
「なァ、おみねさん。胡麻化《ごまか》しちゃいけないよ。敷っぱなしの寝床か、人が寝ていた寝床か、ぐらいは、警視庁のおまわり[#「おまわり」に傍点]さんにも見分けがつくんだよ」
 このとき帆村の頭のなかには、ネオン横丁の出口のところで見た怪しの人影のことがハッキリ浮かんできたのだった。
「言えないね」と大江山警部は顎《あご》をなでた。
「じゃ別のことを訊くが、大将は誰かに恨みを買っていたようなことは無かったかね」
「それはございます。妾の口から申しますのも何でございますが、ここから四軒目のカフェ・オソメの旦那、女坂染吉がたいへんいけないんでございますよ。このネオン横丁で、毎日のように啀《いが》み合っているのは、うちの人と女坂の旦那なんです。いつだかも、脅迫状なんかよこしましてね」
「脅迫状を――。そいつは何処にある」
「主人が机のひきだしにしまったようですが……」と言っておみねは机をかきまわしていたが
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