「あ、ありました、これです」
「どれどれ」大江山警部は、状袋に入った脅迫状というのを取り上げて、声を出してよんだ。
[#ここから3字下げ、罫囲み]
すぐネオン横丁から出てゆけ。ゆかないと、さむい日に、てめいのいのちは、おしゃかになるぞ。
[#ここで字下げ終わり]
「なんだか、おかしな文句だな。さむい日[#「さむい日」に傍点]と断ってあるが、こいつは当っている。おしゃかになる[#「おしゃかになる」に傍点]というのは『毀《こわ》す』という隠語だがこれは工場なんかで使われる言葉だ。――おみねさん、この脅迫状には名前がないが、どうして女坂染吉とやらが出したとわかるんだい」
「だって、外には、そんな手紙をよこす人なんて、ありませんわ」
「そいつは、何ともいえないね」と警部は言って、ちょっと考え込んでいたが、「この辺で工場へ行っている人とか、職工あがりという種類の人を知らないかね」
「ああ、あいつかも知れません。ネオン・サイン屋の一平です。あれはこの横丁の地廻りで、元職工をしてたので、ネオンをやってるんです。うちのネオンも、一平が直しに来ます」
「ふうん。一平と虫尾とはどんな交際だい」
「さあ、別
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