ま引返したのだった。
 警視庁から捜査課長大江山警部などの、刑事部首脳が駆けつけてくるまでの帆村荘六は、滑稽な惨めさに封鎖されていた。
「外山君」と大江山課長は、その警官の名を呼んだ。
「帆村探偵の素状を一応調査しておいた方がいいだろうかね」そういって警官の非礼を婉曲に帆村荘六に詫びるのだった。
 さて正式の取調が始まった。
 殺されたのは、このカフェ・アルゴンの主人である虫尾兵作《むしおへいさく》だった。
 その隣室にいた女性は、同人の妾である立花おみねと呼ぶ者だった。
 誰が殺したか。
 殺した手段は、帆村が発見したピストルによることは、大体明らかであって、なお屍体解剖の上で確かめられる手筈になった。では何物が、天井裏にのぼって、あの節穴からカフェ・アルゴンの大将虫尾兵作を狙い射ちにしたのか。
「おみねさん」と大江山警部は、悄気《しょげ》きっている大将の妾に言葉をかけた。
「この部屋には寝床が二つとってあるが、一つはお前さんの分で、もう一つは誰の分なんだい」
「ハイ。それはアノ……」
「はっきり言いなさい」
「ハ、それは、なんでございます、うちのナンバー・ワンの女給、ゆかり[#「ゆ
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