ワーッと脳貧血が起りそうになった。それほどむごたらしい傷口だった。
「おお、金《きん》さん。可哀想《かわいそう》に……」と番人は声を慄《ふる》わせた。「助かりますか」
「金さんというのかネ」と帆村は云った。「金さん、まだ脈が続いている。無論意識は無いがネ。至急医者だ、警察も急ぐが、それより前に医者だ」
「医者は何処が近いですか、爺さん」私は番人の腕をとった。
「医者はあります。ここを向うへ三町ほど行ったところに丘田さんというのがある」
「じゃ爺さん、ちょっと一走り頼む」
「わしは、どうも……」
 番人は尻込《しりご》みをした。その結果、どうしても私が行かねばならなくなった。医師のところへゆくとすれば、怪我人《けがにん》の様子をよく見て行って話をせねばならないと思ったので、私は無理に気を励《はげ》まして、血みどろの被害者の顔を改めて見直した。
「おお、これは……」
 と私は駭《おどろ》きに逢って、とうとう声に出した。
「どうした、オイ。知り合いか」と帆村も駭《おどろ》いて私の肩を叩いた。
「これあネ」私は彼の耳に口を寄せた。「これあ先刻《さっき》云ったゴールデン・バットの君江とややっこし
前へ 次へ
全53ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング