い仲で評判の男さ」


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 私は医者を迎えるために、外へ飛びだした。丘田医師というのは、ゴールデン・バットの近くに診療所を持っていた。それだから私は、さっき帆村と一緒に通った道をもう一度逆に帰ってゆかねばならなかった。
 その道々、私の全神経は、今見た怪我人のことで占領されていた。
 金《きん》と呼ばれる彼《か》の男の顔を覚えたのは、忘れもしない私が最初バットの門をくぐったときのことだった。沢山客もあるなかで、なぜあの男のことをハッキリ印象づけられたか。そうそう思い出したが、まだもう一人、あのときに覚えた男がいた。その人のことを先に云うが、それは海員らしく、女たちにしている話が如何にも面白かったので記憶に残っている。あまり大きな人ではなかったが、陽《ひ》にやけた男らしい男で、その上、どの海員たちもがそうであるように、非常に性的魅力といったようなものが溢《あふ》れていて、女の子にはチヤホヤされそうに見えた。彼のしていた話というのは、むろん航海中の出来ごとについてだったが、中で一番私の注意を引いたものは、密輸入に関するものだった。船員の中には、陸上の悪漢団《あっかんだん》と
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