ゴールデン・バット事件
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夜更《よふけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)性能|優《すぐ》れた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)毎晩はんこ[#「はんこ」に傍点]で
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 あの夜更《よふけ》、どうしてあの寂しい裏街を歩いていたのかと訊《き》かれると、私はすこし顔が赭《あか》くなるのだ。
 兎《と》に角《かく》、あれは省線の駅の近所まで出て、円タクを拾うつもりで歩いていたのだった。連《つ》れが一人あった。帆村荘六《ほむらそうろく》なる男である。――例の素人《しろうと》探偵の帆村氏だった。
「君の好きらしい少女は、いつの間にやら居なくなったじゃないか」と帆村が云った。
「うむ――」
 私は丁度《ちょうど》そのとき、道を歩きながら、その少女のことを胸に描いていたところだったので、ハッとした。あの薔薇《ばら》の蕾《つぼみ》のように愛らしい少女を、帆村に紹介かたがた引張りだした今夜の仕儀《しぎ》だった。それはこの場末《ばすえ》の町にある一軒のカフェの女だっ
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