た。カフェの女とは云いながら、カフェとは似合わぬ姫君のように臈《ろう》たけた少女だった。
そのカフェは、名前をゴールデン・バットという。入口に例の雌《めす》だか雄《おす》だか解らない二匹の蝙蝠《こうもり》が上下になって、ネオンサインで描き出してあった。一寸《ちょっと》見たところでは、薄汚い極《ご》くありふれたカフェではあったが、私は何ということなく、最初に飛びこんだ夜から気に入ったのだった。それは一ヶ月も前のことだったろう。そのときは私一人だったのだが、その折のことはいずれ話さねばならぬから、後《のち》に譲《ゆず》るとして置いて、さて――
「今夜はコンディションが悪かったよ」と私は、半分は照れかくしに云った。
「そうでも無いさ。大いに面白かった」
「それにもう一人、君に是非紹介したいと思っていた女も休んでいやがってネ」
「うん、うん、君江《きみえ》――という女だネ」
「そうだ、君江だ。こいつと来たら、およそチェリーとは逆数的《ぎゃくすうてき》人物でネ」
「チェリーというのかい、あのミツ豆みたいな子は……」
「ミツ豆? ミツ豆はどうかと思うナ」(あわれ吾が薔薇《ばら》の蕾《つぼみ》よ)
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