っていた後《のち》のことだった)
 チェリーは外へ逃げだしたが、そこで深夜の街を歩いていた丘田医師に掴《つかま》ったのだった。掴るというよりも、むしろ助けられたといった方が当っていた。丘田はチェリーの唯《ただ》ならぬ様子からそれと察して、幸い独身者の気楽な自分の家へ連れてかえったのだ。その後、二人の仲が如何に発展したか、それは云うまでもないことである。
 ところで金のところにあったヘロインの袋は一体誰が盗んだのか。これはいまだに明瞭《めいりょう》ではないのであるが、帆村の説によると、既に金のところへ度々呼ばれて行った丘田医師が、金の隙《すき》をみて秘かに奪いとったものではなかろうかと云っている。あの種の中毒患者にはそんな隙などはザラにあることに違いなかった。
 丘田医師は、盗みとった魔薬を悪用し、金と同じ手を用いて、カフェ・ゴールデンバットに君臨《くんりん》したのだった。幸い医者だった彼は、その後の中毒女たちに投薬することに非常に巧《たく》みだった。だから女たちは、中毒者のようには見えなかったのだ。しかし最後に来て、運命の悪戯《いたずら》というか、天罰というか、丘田医師が魔薬を失い、遂
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