の情人であるチェリーの切なる乞《こ》いではあったが、バットを与えることを断然《だんぜん》拒《こば》んだわけだった。
チェリーは拒絶《きょぜつ》されると、もう我慢しきれなくなった。どうしてもあの薬を手に入れなければならなかった。暴力に訴えても、たとえ殺人をしても……。彼女は全く気が変になって、あの重い砲丸を頭上に持ち上げた。金はこの思いがけない危険に室内を逃げ廻っているうちに、とうとうチェリーのために鉄の砲丸を擲《な》げつけられてしまった。そしてあのような悲惨な最期《さいご》を遂《と》げたのだった。
さてそれから、チェリーは室内を葡《は》いまわって、魔薬《まやく》の入った煙草を探した。遂《つい》に煙草の隠匿《いんとく》場所がわかって、八本の特製のゴールデン・バットを手に入れた。彼女はそこで貪《むさぼ》るように、あの煙草を喫ったのだった。喫っているうちに、次第に薬の効目《ききめ》はあらわれた、彼女は平衡《へいこう》な心を取りかえしたのだった。彼女がソッと現場《げんじょう》を逃げだしたのは、それからだった。――(海原力三《うなばらりきぞう》が殺人の目的で忍びこんだときは、既に金が重傷を負
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