。命に関する出来ごとだった。彼は気が変になったように部屋の中を探したが、どうしても出て来なかった。そのうちにだんだんと中毒症状が出てきたので彼はかねて懸《かか》りつけの丘田医師をよんで、投薬《とうやく》を頼んだ。それから以来というものは、一日に何回となく丘田医師のもとに哀訴《あいそ》を繰りかえさねばならなかった。ただ然《しか》し中毒者のことであるから、服薬したあとの数時間は、普通と異《ことな》らぬ爽快な気分で暮らすことが出来た。
しかしここに困ったことが出来た。それは金が予《かね》て魔薬《まやく》入りのゴールデン・バットをバラ撒《ま》いていた女たちに与えるものがなくなったことだった。女たちの中でも、一番|恐《おそ》ろしい苦悩に襲《おそ》われたものは、実にチェリーだった。チェリーはその頃、金の寵愛《ちょうあい》を集めていただけに、服薬量が大変多量にのぼっていた。だからチェリーは金を訪ねて、ヘロインをせびったのだった。
しかし金にとって、もういくらも貯《たくわ》えのないヘロイン入りのゴールデン・バットだった。ひとに与えれば、忽ち自分が地獄のような苦悶に転げまわらねばならない。だから最愛
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