ると、今度はどうしても喫《の》まなければ苦しくてならない。仕舞《しま》いには、あの仕掛けのある煙草のことを感づいたのだろうが、そのときはどうにもならないところへ達していた。女たちは金に殺到《さっとう》して、そのゴールデン・バットを強要した。金としては思う壺《つぼ》だったろう。バット一本の懸け引きで、気に入った女たちを自由に奔弄《ほんろう》していったのだ」
「そうだったか――」私は深い嘆息《たんそく》と共に、あの死んだ金が素晴らしくもてていた其の頃の情景をハッキリ思い出した。
「これは君江から、すっかり訊《き》いてしまったことなのだよ。君江が一時、狂暴になったことがあったネ。あれは金が寵愛《ちょうあい》をチェリーに移し始めた頃だったんだ。君江はそれを愚図愚図《ぐずぐず》云ったものだから、金は怒《おこ》って、それじゃお前には今までのように薬をやらないぞといって、薬の制限で君江を黙らせようとしたのだ。君江は他の女よりすこし分量を多く貰っていた。それは金が彼女を強烈に興奮させて置いて、自分の慾情を唆《そそ》ろうとしたためだった。ところがその分量を減らされたために、君江はああして金に喰ってかかっ
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