載せて火を点《つ》ける。それでいいのだろう』君江は黙って肯《うなず》いた」
「そりゃ、どういうわけだい」
「なーに、これはあの劇薬《げきやく》を煙草に浸《し》ませて喫う方法なのだよ。鴉片《あへん》中毒者はモヒ剤だけを吸うが、われわれの場合は、ほんの僅かのモヒ剤を煙草に交《ま》ぜて吸うのだよ」
「その方法は?」
「それは詳《くわ》しく云うことを憚《はばか》るがネ、とにかくその薬の入った巻煙草――あの場合ではゴールデン・バットだが、そのバットの切口《きりぐち》のところは、一度火を点《つ》けて直ぐ消したようになっているのだ。金のやつは、こうした仕掛けのある煙草を吸っていた」
「そりゃ、うまいのだろうか」
「モルヒネ剤特有の蠱惑《こわく》にみちた快味《かいみ》があるというわけさ。ところが金という男は頭がよかったと見えて、それを自分だけに止めず、ゴールデン・バットの女たちに秘《ひそ》かに喫わせたのだ。女たちは、真逆《まさか》そんな仕掛けのある煙草とは知らず、つい喫ってしまったが、大変いい気持になれた。それでうかうか何本も貰って喫っているうちに、とうとうモヒ中毒に懸《かか》ってしまった。さアそうな
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