は、或る一つの仮定を置いた。仮定を置いただけでは十分ではない。僕はその仮定を確めるために、神戸の波止場《はとば》で仲仕《なかし》を働きながら、不思議な秘密の楽しみをもっている人達の中を探しまわったのだ。そして遂に私の仮定が、或る程度まで正鵠《せいこく》を射ていることを確めた。しかしその上で、尚《なお》実際的証人を得る必要があったのだ。それで僕は急遽《きゅうきょ》東京へ引返した。そして第一番に逢って話をしたのがあの君江なのだ」
帆村はそこでまたホープを甘《うま》そうに喫《す》った。
「君江というと、彼女は金の情婦《じょうふ》として有名だった時代がある。私は一本|釘《くぎ》をさして置いた上で尋《たず》ねてみた。『君はあのうまい煙草の作り方を、死んだ金から教わったのだろう』と」
「なに、うまい煙草というと?」
「そうなのだ。甘《うま》い煙草のことを訊《き》かれて彼女はハッと顔色をかえたが、もう仕方がないのだ。先にさして置いた私の釘は、どうしても彼女の告白を期待していいことになっていたのだ。『ええ、そうですわ』と遂《つい》に君江は答えた。そこで私は云った。『煙草にあの白い粉薬《こなぐすり》を
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