だろう」
「そうだ。屍体解剖の結果、それは十分に証明されたが、しかしあのモルヒネ中毒は彼の直接死因でないことが証明された」
 帆村は、そこで又一本のホープを摘《つま》みあげた。
「ところが、あの金が如何なる手段でモヒを用いていたか、それについては一向解らなかったのだ。僕はそれを解くのに大分苦心をして、とうとう神戸へ出掛けるようなことになったのだ。しかし僕は遂《つい》にその手段を見つけることが出来た。発見のヒントは、金の部屋を探したときに掴《つか》んだものだった。それは灰皿の内容物からだった」
「うむ」
「あのとき、君も知っているだろうが、灰皿の中には、燐寸《マッチ》の燃え屑と、煙草の灰ばかりがあって、煙草の吸殻が一つも見当らなかったことを。あれが最初のヒントなのだ。およそ吸殻《すいがら》のない吸い方をするということは、普通の吸い方ではない。それは愛煙家のうちでも、最も特異な吸い方なのだ。火のついた巻煙草がだんだんと短くなってお仕舞いになると脂《やに》くさくなる。これは決して美味《おいし》いところではない。それを大事に最後まで吸いつくすところに、僕は疑問を挟《はさ》んだのだ。――そこで僕
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