《うなが》して診察室を出た。調剤室はすこし離れた玄関脇にあった。その中へ入ると、プーンと痛そうなくすりの匂いが鼻をうった。三方の高い壁には、十四五段もありそうな棚が重《かさな》っていて、それに大小とりどりの薬壜が、いろいろのレッテルをつけてギッシリ並んでいた。
劇薬は一隅《いちぐう》に設《もう》けられた戸棚の中に厳重に保管されてあった。丘田医師は鍵を外して、ガラガラとその扉《ドア》を開くと、黒いレッテルや赤いレッテルの貼ってある小形の壜が、気味のわるい圧力を私達の上になげつけた。
帆村は隅から一つずつ、その小さい壜を下すと、蓋のあるものは蓋をとり、中身を小さい匙《さじ》の上に掬《すく》いとってみたり、天秤《てんびん》の上に白紙を置いてその上に壜の内容全部をとりだして測《はか》ったり、また封の切ってないものは封緘《ふうかん》を綿密に検べたり、なかなか念の入った検《しら》べ方《かた》だった。始めは感心していたものの、私はだんだん飽《あ》きてきた。その退屈さから脱《のが》れるために、何か面白いものでもないかと調剤室の中をズッと見廻した。
しかし別にこれぞという異《ことな》った品物も見当
前へ
次へ
全53ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング