らなかった。唯一つ、背の低い私にはちょっと手の届きかねる高い棚の上に、直径が七八センチもあろうと思われる大きい銀玉《ぎんだま》が載っていた、その銀玉は、黒縮緬《くろちりめん》らしい厚い座布団《ざぶとん》を敷いて鈍《にぶ》い光を放っていた。どうやら煙草の錫箔《すずはく》を丹念に溜《た》めて、それを丸めて作りあげたものらしかった。いくら煙草ずきの人でも、これだけの大きさの銀玉を作るには少くとも三四年は懸《かか》るだろうと思われた。
私はあとで丘田医師に訊《たず》ねてみようと思って、なおもその銀玉を見つめていたのであるが、そのとき妙なものに気がついた。それは銀玉の上から三分の二ぐらいのところに、横に一本細い線が入っていることだった。よくよく見るとそれは線というよりも切れ目のように思われた。
(オヤオヤ、この銀玉はインチキかな)
そう思って私は手を伸《のば》しかけたとき、いきなり私の洋服をグッと引張ったものがある。はッと思って見廻わすと、引張ったのは、紛《まぎ》れもなく帆村だった。丘田医師は、脚立《きゃたつ》の上にあがって、毒劇薬の壜をセッセと下していて、それは余りに遠方に居たから、私の洋
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