っているかい」
「煙草というと……」と私はあまり唐突《とうとつ》なので直ぐには気がつかなかった。「ああ煙草のことかい。それならカフェ・ゴールデン・バットのことだ。看板どおりのものを忠実に愛用しているさ。うまい宣伝手段もあったもんだネ。そういえば近来、女ども、バットをてんでにケースに入れていてネ、それを揃いも揃ってパイプに挿《はさ》んでプカプカふかすのだ。他にはちょっと見られない風景だネ」
「ふーん、なるほど」そこで帆村は言葉を切って、彼の好きなホープを矢鱈《やたら》にふかし始めた。
「じゃ一つ――」とやがて彼は立ち上って云った。「今晩は久しぶりにバットへ一緒に連れていって貰うとして、その前に君にちょっと附き合ってもらいたいところがあるんだが」
そこで私は帆村について家を出掛けたのだった。
「最初はここだよ」
と彼は云って、バットの近所にある野間薬局の店先《みせさき》にずかずか入っていった。
「ちょっと劇薬売買簿《げきやくばいばいぼ》を見せて貰いたいのですがネ。ここに本庁からの命令書がありますが……」
そういって帆村は店先に腰を下した。顔の青白い主人が奥から出てきて、こっちを向いて
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