サ」
「ところがブラブラしていたとはいいながら、波止場仲仕《はとばなかし》をやっていたんだぜ」
「波止場仲仕を、か?」
私は直ぐ帆村の意図《いと》が呑みこめた。彼は例の事件について、外国汽船の出入はげしい港で何事かを調べていたというわけなのだろう。
「ときに君は、近頃ゴールデン・バットへ行っているかい」
「行ってはいるがネ」
「行ってはいるがネというところでは、あまり成功していないようだネ。あすこも金だの海原氏が一時に行かなくなって、寂しくなったことだろう」
「その代り大した後任者が詰めかけているよ」
「そりゃ誰のことだい」
「君には解っているのだろう。あの丘田医師のことさ」
「そうか。丘田氏が行っているか。相手はどの女だい」
「それが例のチェリーなんだ。チェリーはこの頃、断然《だんぜん》ナンバー・ワンだよ。君江も居るには居るが昔日《せきじつ》の俤《おもかげ》無《な》しさ。しかし温和《おとな》しくなった。温和しいといえば、あの事件からこっち、不思議に誰も彼もが温和しくなったぞ。あれから思うと金という男は、悪魔のようなところのある素晴らしい天才だったんだナ」
「煙草の方は相変らず皆でや
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