ないぞ」と私は負けるのが厭《いや》であるから叫んだ。「こういう場合だ、気が変になった女が、金に重傷を負わした。途端に癒《なお》ったとすると……」
「もう止《よ》そう。はッはッはッ」と、帆村は呆《あき》れ顔《がお》に笑い出した。
「帆村君、ちょっと来て下さらんか」
室の外から、大江山捜査課長の呼ぶ声がした。どうやら隣りの調べも片《かた》がついたものらしかった。
4
金《きん》青年殺害事件は案外|呆気《あっけ》なく処理されてしまった。官辺《かんぺん》では、帆村が捕縛《ほばく》した例の男を犯人として判定してしまった。
ここに意外だったことは、あの犯人という男が、海原力三《うなばらりきぞう》その人だったことだ。私もあの後、係官の前へ彼が引張りだされたとき初めてそれと気が付いて駭《おどろ》いてしまったわけだった。
海原力三は最初のうちは猛烈に頑張《がんば》って、犯人でないと云い張った。しかし後に至って遂に係官の指摘したとおり、一切の犯行を認めたということであった。
犯行の動機は、カフェ・ゴールデン・バットで金のために女を奪われたことを極度に憤慨《ふんがい》したためだっ
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