められるし、それからまた現にあの部屋から出てきたのを見られている。しかし犯人が若い女の方だとすると、煙草は可也《かなり》重要な証拠になると思う。金が目醒《めざ》めている間には、あんなに煙草を撒き散すことは出来ない。男は相当抵抗の末重傷を加えられたと認められるから、そうなるとバットが踏みつけられることなしに満足に転がっている筈がない。そうかと云って男がベッドに睡っている間にあの煙草を撒いたのでもない。其《それ》は男がベッドから遠く離れたところで重傷しているので解る。ベッド以外に男が睡っていられるところなんてあるものじゃない。どうしてもあの煙草は、男に兇行を加えた上で撒いたものに違いないとなるじゃないか。もう一つ砲丸を擲《な》げることは、どの若い女にも出来るという絶対の芸当ではないのだ。それとも君は、脆弱《かよわ》い女性にあの砲丸を相手の肩へ投《な》げつけることが出来る場合を想像できるかネ」
「さあそれは、まず出来ないと思うネ。その女が気が変にでもなって、馬鹿力というのを出すのでも無ければネ」
「気が変に? 気が変だとすれば、あの場をあんなに巧《たく》みに逃げられるだろうか」
「ないことも
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