「うん、だがあの短刀にはまだ一滴の血もついていないのだ」
「すると、あの袋入の砲丸でやっつけたのだろう。あの大きな男にはやれそうな手段じゃないか」
「それもまだ解らない」
「君はあの男に、まだそれを訊《き》いてみないのかい」
「うん、あの男とは其《そ》の後《ご》一《ひ》と言《こと》も口を利いていないんだ」
 犯人と思われるあの男に、まだ一言半句の訊問《じんもん》もしてないという帆村の言葉に、私は驚いてしまった。
「じゃ今まで君は、一体何をしていたのかネ」
「金の部屋について調べていたのだ」
「そして何を掴《つか》んだのかい」
「いろいろと面白いものを掴んだ。しかし短刀をもった男を犯人と決めるに十分な証拠はまだ集まらない」
「というと、どんなものを」
 帆村は嚥《の》みこんだ煙を、喉の奥でコロコロまわしているようだったが、やがて細い煙の糸にして静かに口から吐きだした。それは彼が何か解《と》き難《がた》い謎を発見し、解く前の楽しさに酔っているような場合に限って、必ずやって見せる一つの芸当《げいとう》だった。
「あの部屋で面白いことを見つけたがネ」と帆村はボツボツ語りだした。「それはゴー
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