ルデン・バットについてなのだ。君はあすこの床の上に、バットがバラバラ滾《こぼ》れているのに気がつかなかったかい」
「そういえば、五六本、転《ころ》がっているようだネ」
「五六本じゃないよ。本当は皆で三十二本もあるんだ。といってこれが、五十本も入るシガレット・ケースから転げ出したのじゃないのだよ。そんなケースなんて一つもあの部屋には無いのだ。あるのはバットの、あのお馴染《なじみ》の空箱《からばこ》だけだった。空箱の数はみんなで四個あったがネ」
「ほほう」
「それからもっと面白いことがある。あの部屋には灰皿が三つもあるんだが、さて其《そ》の灰皿の中に大変な特徴がある」
「というと……」
「灰皿の中に、燐寸《マッチ》の軸と煙草の灰が入っているのに不思議はないが、もう一つ必ず有りそうでいてあの灰皿には見当らないものがあるのだ」と帆村は云ってちょっと口を噤《つぐ》んだ。
「それは何かというと吸殻《すいがら》が一つも転っていないのだ。灰の分量から考えると、すくなくとも十五六個の吸殻《すいがら》がある筈と思うのだが、一個も見当らないのだ。これは大変面白いことだ」
私には何のことだか見当がつかなかっ
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