…」
大江山捜査課長は、この事件を帆村から報せて貰《もら》ったことに礼を述べた。
「ときにどうです、被害者の容態は」
「間もなく絶命《ぜつめい》しましたよ。とうとう一言も口を利きませんでした。……午前零時三十五分でしたがネ」
「ほほう、そうですか。これが金という男ですか。やあ、これはひどい」
「現場《げんじょう》はすべて事件直後のとおりにしてありますから」
「いや有難う」
係官たちは、現場がすこしも荒されずに保存されたことについて、帆村に感謝したのだった。帆村は私を促《うなが》して、別室へ移った。これは係官の調べを済ます間、邪魔をしないためだった。
同じような部屋割りの隣室《りんしつ》だった、椅子もないので、私達はベッドの上に腰を下した。ここに暫《しばら》くの時間があるが、この間に帆村とうまく連絡を取っておかねばならない。
「どうだ、犯人は何か喋《しゃべ》ったかい」
と、帆村がホープに火を点《つ》けるのを待って尋ねてみた。
「いや君、あの男はまだ犯人とは決っていないよ」
「だってあの男は、事件の室から出て来たのだろう。そして薄刃《うすば》の短刀をもって君に切り懸ったのじゃないか
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