す。例えば、中毒症といったようなものがです」
「そうです、そうです」医師はしきりに同感の意を表して云った。
「そう仰有《おっしゃ》れば申上げてしまいますが、実はこの金さんはモルヒネ剤《ざい》の中毒患者ですよ」
「ほほう、貴方のところへ、治療を求めに参りましたか」
「そうなんです。実はこの四五日この方《かた》ですがネ」
「今日も御覧になりましたか」
「今朝|診《み》ましたよ。大分ひどいのです。普通人の極量《きょくりょう》の四倍ぐらいやらないと利かないのですからネ」
「四倍ですか、成程。――」
 帆村はケースから一本の巻煙草を引張りだすと、カチリとライターで火をつけた。そしてそれっきり黙りこくって、ただ無闇に紫の煙を吹いた。それは彼がなにか大いに考えるべきものに突き当ったときの習慣だった。
 そのとき、大通りの方から、けたたましい自動車の警笛《けいてき》が入り乱れて聞えてきた。それはアパートの前まで来ると、どうやら停った様子だった。間もなく階段をのぼるドヤドヤという物音がして、この事件を聞きつたえた警視庁の係官や判検事の一行が到着したのだった。
「やあー」
「やあ、先程はお報《しら》せを…
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