うので、女どもはその函をひったくって(それは大抵《たいてい》、あの君江の手に入るのが例だ)、ひったくった女が、子供に菓子を分けるように、朋輩《ほうばい》どもの手に一本ずつ握らせてやる。貰った方では、その金青年お流れの煙草に、パッと火をつけて貪《むさぼ》るように吸って、黄色い声をあげる。
左様《さよう》に豪勢《ごうせい》な(併《しか》し不思議な)人気を背負《しょ》っている金青年の心は一体誰の上にあったかというと、それは君江の上にあった。その君江なる女がまた愉快な女で、金の女房然《にょうぼうぜん》としているかと思えば、身体に暇があると、誰彼なしに愛嬌《あいきょう》をふりまいたり、情《なさ》けを尽したりした。だから君江という女は、金とは又別な意味で、客たちの人気を博していた。
しかし満《みつ》れば虧《か》くるの比喩《ひゆ》に洩《も》れず、先頃から君江の相貌《そうぼう》がすこし変ってきた。金青年に喰ってかかるような狂態《きょうたい》さえ、人目についてきた。それでいて、結局最後に君江は金の機嫌を取り結ぶ――というよりも哀訴《あいそ》することになるのだった。
これに反して金青年の機嫌は、前か
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