つのもくねじであるが、日本に生まれた以上、やっぱり日本精神を持っている。だからぼくの折角《せっかく》のこの幸運も、自ら省《かえり》みて、いささか暗い蔭のさしていることが否《いな》めない。
 それでもいいのであろうか。
 声をたてるわけにもいかないので、ぼくはだまってそのまま成行《なりゆき》にまかせるより外《ほか》なかった。不幸なる幸福! 少々うしろめたい幸運!
 果してぼくは、いつまでも幸福でいられるであろうか。


   悲劇《ひげき》


 その後ぼくは異状がなかった。
 ぼくの取付けられた放送機は、それからのち方々へ廻った。
 多くの時間が、この装置の試験に費《ついや》された。装置には、真空管《しんくうかん》も取付けられ、すっかりりっぱになったところで、はじめて電気が通され、計器の針が動いた。
 試験をしていると、装置はだんだん熱してきた。ぼくはあまり暑くて、しまいには汗をかいた。
 そのうちに試験も終り、荷作《にづく》りされた。
 ぼくはトラックに揺《ゆ》られ、それから貨車の中に揺られ、放送所のある遠方《えんぽう》の土地まで搬《はこ》ばれていった。
 そこから先、またトラックに
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