いだった。
「ヒトミちゃん。あれは木だよ、蔓草《つるくさ》だよ。みんな植物だ。植物が、あんなに踊っているんだ。いや、ぼくたちを見つけて、突撃してくるんだ。おお、これはたいへんだ」
「ああ、気味がわるい。なんだって植物がうごきまわるんでしょう。あれは椰子《やし》の木だわ。あッ、マングローブの木も交《まじ》っているわ。あの青い蛇のようにはってくるのは蔓草だわ。まあ、こわい」
「ふしぎだ、ふしぎだ。今までにあんな植物を見たことがない。話に聞いたこともありゃしない。ふしぎな植物だ。動物になった植物とでもいうのかしら」
 東助もヒトミも、息をつめて、奇怪なる有様《ありさま》に気をうばわれている。
 彼らはますます近くなって、ふしぎな姿をはっきり見せた。すくすくと天の方へのびて、梢《こずえ》にみるみる実を大きくふくらませる椰子《やし》の木。とめどもなく枝を手足のようにのばし、枝のさきをいくつにもひろげて、こっちへおしよせてくるマングローブの木。煙がはうようにのびてくる仏桑花《ぶっそうげ》。そして赤い大きな花がひらいたと思うと、たちまちすぼみ、また大きな花がたくさん次々に咲いてはすぼみ、まるで花で呼
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