ところへも届く」
「それはそうだね」
「あの金博士の意地悪《いじわる》め。僕は、英艦隊を一挙《いっきょ》にして撃沈《げきちん》したいため、うまうまと博士の見え透《す》いた悪戯《いたずら》に乗せられてしまったんだ。ちくしょう、ひどいことをしやがる」
「……」
 ロッセ氏は、天に向って、しきりに博士の名を呪いながら、停っては歩き、そして又停っては歩きした。よほど口惜《くや》しそうだった。
 私は、博士のことを、そんな人物だとは思わないが、ロッセ氏から、のろのろ砲弾についての討論を聞いているうちに、だんだんと氏のいうところも尤《もっとも》だと思うようになった。
「なるほど、反対条件だねえ」
「博士よ、豚に喰《く》われて死んでしまえ」
「まあ、そういうな。背後《うしろ》をふりかえってから、ものをいって貰おうかい」
 ふしぎな声が、とつぜん、私たちのうしろから聞えたので、私ははっと思った。
「誰だ?」
「あっ!」
 生れてからこの方、私はこんなに愕《おどろ》いたことは初めてだった。悲鳴をあげると共に、私は愕きのあまり、鋪道《ほどう》のうえに、腰をぬかしてしまった。なぜといって、私が振り返ったとき
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