対し、すっかり囚人《しゅうじん》になっているのがいけないのかもしれない」
ロッセ氏は、そういって、ぶるぶると身顫《みぶる》いをすると、急いでグラスを唇のところへ持っていった。
4
私たちが外に出たときは、夜もだいぶん更けて、さすがの南京路《ナンキンろ》も、人影が疎《まば》らであった。
二人は、アルコールにほてった頬を夜風に当てながら、別に当てもなく、路のあるままに、ぶらぶら歩いていった。私たちの話題は、やはり金博士と、そして博士よりロッセ氏に与えられた奇怪なる謎々とに執着《しゅうちゃく》していた。
それはもう、四五丁も歩いた揚句《あげく》のことだったと思うが、ロッセ氏は、急に両の手を頭の上にのばし、拳固《げんこ》をこしらえて、まるで夜空に挑《いど》みかかるような恰好《かっこう》で、はげしく振り廻しはじめた。たいへん昂奮《こうふん》の様子である。
「おい、ロッセ君。一体、どうしたのか」
「うん。やっぱり、われわれは、金博士に騙《だま》されたんだ。あんなばかばかしいことが出来てたまるものか。砲弾が低速で走れば、たちまち落ちるばかりではないか。高速であればこそ、遠い
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