のろのろ砲弾の驚異
――金博士シリーズ・1――
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伴《ともな》って、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一等|繁昌《はんじょう》して
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     1


 今私は、一人の客人を伴《ともな》って、この上海《シャンハイ》で有名な風変《ふうがわ》りな学者、金博士《きんはかせ》の許へ、案内していくところである。
 博士の住居《すまい》が、どこにあるか、知っている人は、ほんの僅かである。人はよく、博士が南京路《ナンキンろ》の雑鬧《ざっとう》の中を、擦《す》れ切った紫紺色《しこんしょく》の繍子《しゅうし》の服に身体を包み、ひどい猫脊《ねこぜ》を一層丸くして歩いているのを見かけるが、博士の住居を知っている者は、殆んどない。
 金博士の住居は、南京路でも一等値段がやすく、そして一等|繁昌《はんじょう》している馬環《ばかん》という下等な一膳飯屋《いちぜんめしや》の地下にあるのだ。
「さあ、ここがその馬環です。どうです、たいへんな繁昌でしょうが」と私は、客人をふりかえった。「足の踏み入れようもないというのが正《
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