まさ》にこの店のことだが、第一このむーんとする異様な匂いには、慣れないものは大閉口《だいへいこう》で、とたんにむかむかしてくる。だが、とにかくこの中へ入っていかねば、博士に会えないのだから、一時鼻をつまんで、息をしないようにして、私についていらっしゃい。邪魔になるお客さんは、遠慮なく突きとばしてよろしいのである。お客さんは、突きとばされて丼《どんぶり》の中に顔を突込《つっこ》もうと、誰も怒るものはいないであろう。遠慮していれば、いつまでたっても、奥へ通れない。さあ遠慮なく、こうして突きとばすですな。しかし懐中物《かいちゅうもの》だけは要慎《ようじん》したがいいですぞ。突きとばされるのを予《あらかじ》め待っていて、突きとばされると、とたんにこっちの懐中物を失敬する油断のならぬ客がいるからね。あれっ、もうやられたって。ああ待った。もうさわいでも駄目です。一度やられると、たとえやった犯人の顔がわかっていても、二度とお宝《たから》は出て来ないのです。さわぎたてると、どうせろくなことにはならない。また何か盗《と》られます。生命《いのち》などは、盗られたくないでしょうから。
 さあ、ようやく奥へ来
前へ 次へ
全23ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング